25周年対談『泉館長×ターザン山本』第2話『コロナ禍、豊嶋裕司さんと「ウイルスマスク」』
共有
第2話
コロナ禍、豊嶋裕司さんと「ウイルスマスク」
25周年対談『泉館長×ターザン山本』 目次
泉館長:
この5年間を振り返ると、まず大きかったのはコロナ禍です。
2020年、世の中が一気に変わりました。
闘道館も例外ではありません。
プロレスは、やっぱり人が集まって成立する文化です。
「集まるな」という状況は、正直かなり厳しかったですね。
実は店を一度閉めることも考えました。
助成金をもらって落ち着くまで待てばとアドバイスしてくれる人も
でも逆に、巣ごもり需要はあるはずだから。
最終的に、店は閉めない、スタッフも休ませないと決めました。
一度止めてしまうと、
ターザン山本:
そうだね。
こういう時にいつも思うんだけど、
マイナスこそがチャンスなんだよ。
マイナスをどうプラスに変えるか。
そこに人間力が試される、文化の力が出る。
プロレスっていうのは、
もともとそういうものなんだよ。
ネガティブな状況を
どうやってプラスに変えるか。
ずっとそうやって闘ってきた。
それこそがプロレスの発想だよね。
泉館長:
そんなコロナ禍の中で、私にとって忘れられないのが、
初代タイガーマスクのマスク職人・豊嶋裕司さんとの出来事です。
「うわぁ、うんざりするなぁ」
泉館長:
豊嶋さんが初めて闘道館に来たときのことは、
店に入ってマスクやグッズを見回した瞬間、
豊嶋さんがボソっと言ったんです。
「うわぁ、うんざりするなぁ」
ターザン山本:
ははは。
泉館長:
最初は「え?」と思いました。
でも後で意味が分かったんです。
豊嶋さんの中では、タイガーマスクやライガーの時代――
ところが闘道館に来ると、その文化がまだ生きている。
マスクが並び、ファンがいて、店が動いている。
つまり、
「まだこの世界は終わっていない」
それを実感してしまった。
「うんざりするなぁ」というのは、
「まだ俺は終われないのか」
という職人の心のつぶやき、
闘争心が再発火したことの裏返しの表現だったんですね。
それを聞いた時、
「ああ、この人の感性はすごいな」と思いました。
ターザン山本:
いかにも職人だねえ。
ややこしい人だけど、おもしろいねえ。
泉館長:
それから豊嶋さんは、闘道館に毎週のように来るようになります。
いろんな作品を持ってきてくれ、その都度一緒に食事をし、
豊嶋三原則
泉館長:
そんな頃、世の中がコロナに入りました。
その時、豊嶋さんが言い出したのが
ウイルスマスクでした。
ターザン山本:
タイガーマスクじゃなくて?
泉館長:
そうなんです。
私は最初、
でも豊嶋さんは違いました。
「これはファン向けじゃない。
今、世の中が困っている。
役に立つものを作る。
人助けでやるんでしょ?」
そう言ったんです。
そして豊嶋さんは、
豊嶋三原則
・誰もやっていないこと
・誰も思いつかないこと
・誰よりも早くやること
ターザン山本:
いいねえ。
泉館長:
日本人初のマスク職人になり、
コロナでも同じでした。
「今、必要なもの」をすぐ作る。
それがウイルス対策マスクでした。
月2000枚
泉館長:
作り始めると、とにかく早かった。
生地を確保するために、一緒に生地屋さんへ行きました。
反物をロールごと買って、それを持ち帰り、切って、縫う。
豊嶋さんは家でミシンを踏み続け、
出来上がったマスクを闘道館に持ってきてくれる。
すると、ものすごい勢いで売れていきました。
結果的に、
月2000枚
を超えるペースでした。
ターザン山本:
手作りで2000枚?
泉館長:
そうなんです。
職人一人の手作りで月2000枚。
それが半年以上続きました。
それだけ世の中が必要としていたんだと思います。
電話事件
泉館長:
ただ、豊嶋さんとの関係は、
一度、私が豊嶋さんを怒らせてしまったことがあります。
タイガーマスクのマスクの素材の話をしていたとき、
私が「本革で作れませんか」と相談したんです。
リアルタイム当時に近づけたいと思って言ったんですが、
豊嶋さんには
「今のマスクは安っぽいと言われた」
ように聞こえてしまったらしく、
「もうこれで終わりだ」って、電話をガチャンと切られてしまいました。
かけ直しても出られないので私は、
ターザン山本:
(対応)早いね。いいことですよ。
泉館長:
このまま終わるなら、最後に顔を見て挨拶しておこうと。
「今日で最後ということで、ありがとうございました」
そう言いに行ったら、
「なんで来るんだよ」
「ここまで来られたら帰せねえじゃねえかよ」
と言われて、結局家に上がることになりました。
そして、
「呑んでけよ」
と(笑)。
プッチンプリン
泉館長:
その時も面白かったんです。
普通なら立派な器で酒を呑んでそうじゃないですか。
ところが豊嶋さん、
プッチンプリンの容器
に焼酎をつぐんです。
「これ、形がいいんだよ」
と言って。
ああ、この人は本当に職人なんだな、と。
普通の人にはただのゴミでも、
豊嶋さんには形の面白さが見えている。
ターザン山本:
豊嶋さんは日本人らしい職人だね。
本来、日本人はね、
ものの形とか質感に敏感なんですよ。
それは工芸にも出てくるし、
職人の世界にも出てくる。
それが日本の職人の感性なんだよ。
日本人の美意識っていうのは
四季から来ている。
春、夏、秋、冬。
自然が常に変化するでしょ。
その変化の中で
日本人は「形」を”発見"するようになった。
泉館長:
その感覚が、
職人という生き方
泉館長:
コロナ禍の中で豊嶋さんを見ていて思ったのは、
職人とは、たんに昔の技術を持っている人ではない
今この瞬間に、何が必要なのか。
そこに反応できるかどうか。
コロナという非常事態の中で、
豊嶋裕司さんは「今必要なもの」を作った。
それはプロレスマスクや格闘用具とは全く違うものでしたが、
職人としての本質は同じだったと思います。
ターザン山本:
プロレス文化っていうのはね、
こういう人たちが集まって出来た文化なんだよね。
どんな状況でも何があっても、しつこく生き抜く。
だから面白いんだよ。
